データ分析メモと北欧生活

旧Untitled Note. データ分析、計量経済・統計とR、水産管理、英語勉強、海外生活などについて備忘録や自分の勉強のOutputの場所として

MENU

【読書】ウクライナ危機の今、「100年予測」を読み返す。

ロシアがウクライナに侵攻して早一ヶ月。
当初予測されていたよりウクライナが踏ん張っているというニュースが届くも、空爆や砲撃でボロボロになったウクライナの街や傷ついた一般市民が報道される姿は見ていて心が痛い。

戦争には反対だし、どんな理由があっても許されることではない。しかし、何がここまでの状態を引き起こしたのかという背景を理解することは、これから起こりうることに準備することにも資する。

今回のウクライナ侵攻を見て、思い出したのが数年前に読んだ「100年予測」である。


100年予測 ジョージフリードマン著 櫻井祐子訳

本書は、ハンガリー生まれのアメリカの地政学者であるジョージ・フリードマンが書いた文字通り100年先の世界を予測する本である。
原書は2009年に、翻訳は2010年に出版され、その後クリミア危機を予測した!と話題になって文庫版が2014年に発売された。

最終的には日本がアメリカに宇宙戦争を仕掛ける、という「ねーよwww」という展開もあるのですが、どういうロジックでそういう結論が導き出されるか?という部分は興味深いです。
とくに序盤のロシアや中国の動きは、一読に値すると思う。

以下は、私が2015年に読んだときの読書記録ですが、改めてシェアします。

情報機関の創設者が21世紀に起こる政治・経済の危機を地政学に基づいて”予測”する。

100年先を予測するにおいて、この本の結論、つまり予測結果そのものだけを見ると馬鹿馬鹿しいというか、ありえない、という印象を抱く。しかし、それを見越した導入部分が面白い。1900年の夏にいると想像する。世界の首都はロンドンで、ヨーロッパ諸国が東半球を支配し、世界のほとんどが間接的には、ヨーロッパの支配下にあった。その20年後、ヨーロッパは大戦によって引き裂かれ、オーストリアハンガリー、ロシア、ドイツ、オスマントルコといった帝国は消え去った。アメリカや日本といったヨーロッパ外の国が台頭し、不利な講和条約をおしつけられたドイツは立ち直れないと思われていた。その20年後、1940年には、再びドイツが台頭し、ヨーロッパを支配、海峡を隔てているイギリスのみが対抗しうる存在であると思われ、ドイツが帝国を継承すると思われた。1960年、ドイツは第二次大戦で敗北、アメリカとソ連によって占領されていた。アメリカが世界のリーダーとして躍り出た。核装備による冷戦が始まり、共産圏との均衡状態にあった。1980年、アメリカはソ連ではなく、共産主義北ベトナムに敗北、イランでは油田がソ連の手に落ちつつあった。ソ連を封じるために、アメリカは毛沢東の中国と手を組みはじめた。2000年、ソ連は完全に崩壊した。中国は実質的には資本主義化し、NATOは旧共産圏の国々にも影響を及ぼしていた。世界は豊かで、最貧国の地域問題に注力すればよいものと思われていた。しかし、2001年9月11日、世界が覆される。これらのポイントは、歴史は20年というスパンでいかに変化するか、その時「よそく」されてないことが起こるか、ということである。

著者は本の冒頭で、21世紀はアメリカの世紀であると説く。アメリカが凋落しつつあると言われてしばらくだが、その力はいまだ若い青年のそれであり、青年特有の不安により、力に対する溺れがない。なぜアメリカが台頭したか?その大きな理由の一つは地政学的な理由である。アメリカは北米大陸の覇者であり、その場所の利点は、太平洋と大西洋の両方に出られることである。1980年代初めに、史上初めて太平洋貿易額が大西洋を上回った。その二つの海を支配し、海軍を整備して支配下におけるという点で、北米大陸の地理的な利点は大きい。アメリカが恐れるのは、海の支配をおびやかす存在、すなわち、ユーラシア大陸を統一するような力の出現である。そのため、アメリカの中東域や東欧での行動は、勝利ではなく分裂をうながすことにある。

アメリカはその土地、資本、労働力という経済生産の3要素を豊富に持ちさらに軍事力の増強により、史上どの国もなし得なかった全世界の海を支配するということを成し遂げている。宇宙に配備された衛星により、地球上の海は全て監視下に置かれ、あらゆる場所に出撃できる海軍を保持している。アメリカの地政学的な戦略目標は5つあるとされる。北米を陸軍により支配すること、西半球、アメリカ大陸にアメリカをおびやかす国の作らせない、アメリカへの海上接近路を完全に支配する、物理的安全と国際貿易体制の支配のため、全海洋を支配する、いかなる国にもアメリカのグローバルな海軍力に挑ませない、の5つである。これらを達成すること
念頭にあるとすれば、ユーラシアにおけるアメリカの介入、たとえばアフガンやイラクアルカイダ掃討なども「解決」を目指しているわけではないことの説明がつく

第3章では、人口構造の破綻、ライフスタイルの変化といった事象を、政治的な影響を加味して分析している。産業の高度化によって、子供を持つことがコスト高になり、また女性の社会進出によって結婚の経済的側面が薄まり、さらに平均寿命の伸びによって子供をたくさん生む理由がなくなり、結果としていびつな人口構造が生まれつつある。伝統的な性別が意味を持たなくなり、結婚が経済的側面よりも感情面に重点が置かれるようになったことが、同性愛を認める社会運動ともつながる。   こうした運動の中心になっているのはアメリカであり、国内外から批判も浴びて混乱を生じさせている。一方、コンピューターの発達は、アメリカで大きく前進したが、その背後にはヨーロッパの形而上学に対をなすプラグマティズムアメリカにおいて考えられてきたからと考えられる。こうした文化の面でも、アメリカを避けて世界を考えることはできない。 

アメリカを中心に、次の世界での火種になりうるのは、日本を含めた東アジア、旧ソ連圏、ヨーロッパ、トルコを中心としたイスラム圏である著者は主張する。日本については、中国と同様に、中東・アジア・オーストラリアといった地域から輸入し、アメリカやヨーロッパに輸出するという構造が、アメリカに生命線を握られているに等しいという点で潜在的な紛争問題であるとする。またヨーロッパについてについては、ロシアと大西洋・中央ヨーロッパの緩衝地帯であるポーランドが争点になると考えられている。

2020年というスケールでは、ロシアと中国がアメリカとの紛争になると予測されている。しかし、中国は内部が統一されておらず、帝国を作るには分裂する要素が大きく、アメリカを脅かす存在にはなりえないとされる。また、現在のロシアは危険にさらされている。資源に恵まれている一方で、主要な都市からNATO軍が駐在しているところまで非常に距離が近い。このことから、ロシアは旧ソ連圏の地域を復活させるべく行動すると考えられる。その後冷戦の再現が起こるが、小規模なままロシアの自壊によって幕をとじる。

この時期の中国とロシアの崩壊によって、日本、トルコ、そしてポーランドが力を伸ばすと予測している。これらの国が力をつけ、アメリカが不安を覚えるようになる。特にトルコと日本に対する締め付けを厳しくするのが2040年代と考えられ、アメリカが国内問題をかかえる前後とされる。特に軍事転用可能な技術の輸出を止め、また日本の製品の輸入を制限し始める。またアメリカや日本は宇宙開発を急速に進め、民間商業用に見せかけた軍事用の開発が進む。

2050年代に起こる戦争は日本−トルコ同盟のアメリカの宇宙戦艦に対する先制攻撃から始まるとされる。この戦争は結果的にはアメリカの勝利で終わり、日本やトルコは主に宇宙開発を制限される。ここで重要なのは、民間の被害が少ないことである。世界第二次大戦時は、民間人と軍人の差があいまいだったものがこの頃はその専門性からはっきりとその差が分かれると予測される。

2060年代にはアメリカは好景気と謳歌するとされるがそれが2080年代になると移民の問題とともにメキシコとの対立が表面化してくる。


これらの予測は、国家の地理的な条件を制限とし、国家の目的、すなわち安全保障や利益の拡大を達成するために起こりうる事象を予測している。これは国家が合理的に行動するという仮定になりたっている。このアプローチは経済学の合理的経済人に似ている。事前の予測は合理的であっても、様々なエラーにより細部に至る予測はまずあたることはない。しかし国家の目的や地理的条件といったも制限は100年単位で不変であり、その不変なものをもとに長期の予測を立てるアプローチに学ぶべき部分が多々ある。特に日本が置かれている状況を考えると、現在の安保法制の議論や、武力に関する憲法の議論なども違う側面が見えてくる。これはかならずしも武力を保持することを支持するものではないが、武力を保持することによって避けられるリスクと、本質的な意味での平和への道筋の相違点、および共有できる点を考えることで、予測と行動を考える必要がある。
        


ちょっと、日本のこと買いかぶりすぎじゃね?と思う面もありますが、地政学を元に論理的に予測するとこうなる、という考え方は興味深いです。
ご本人は、もともとは日米の対立(貿易摩擦など)のあたりがご専門だったみたいです。

最近は、ご本人もTwitterでアクティブなようです。


また、100年予測のアップデート版も出てるみたいですね。
時間を見つけて読んでみようと思います。